「最適化されたまち」が退屈な理由
「なぜ、どの街も同じに見えるのだろうか?」
2020年代半ば、私たちが都市に対して抱くこの既視感は、もはや感傷ではなく、明確な経済的リスクとして顕在化しつつあります。
この均質化の元凶は、データやアルゴリズム(ツール)への過度な依存を原因として語られがちです。一方で、真の問題は、それらを「売上至上主義」の道具としてのみ使い、定量データで効率性だけを吸い上げる設計側の思想(指標の乏しさ)にもあると言えます。
さらに、都市開発を担う主体の分断も「共通言語」としての売上以外の議論を希薄化します。自治体、デベロッパー、設計事務所、建設会社、運営ベンダー...。それぞれのプレイヤーが分業の中で「部分的最適」を追求した結果、まち全体としての有機的な魅力や個性が削ぎ落とされ、どこを切っても同じ顔をした「金太郎飴」のような風景が量産されてきました。
2026年現在、私たちはこの「経済合理性の限界」に直面しています。本稿では、金太郎飴的開発に相反する概念である「セレンディピティ(偶然の出会い)」や「余白」といった来街者のバリューが、次の時代の都市競争力を生む源泉であることを検討します。
1. 構造的限界と「アルゴリズム都市」の脆弱性
分断が生んだ「均質化」のジレンマ
前出のような都市計画のあり方は、管理(事業者)側の効率性とリソース管理において多大な恩恵をもたらしてきたものの、同時に、中長期では都市に市民が赴くコアバリューを、ECやSNSと同じ土俵の議論に変質させてきた課題があると言えます。
この変化は、商業の現場でより深刻な形で現れています。米国では2025年、小売店の閉鎖数が約1万5,000店に達すると予測されており、これは2024年の2倍以上のペースです。インフレや人件費高騰といったコスト増に加え、消費者が「効率的な購買」をECで完結させるようになったため、実店舗における「単なる陳列棚」としての機能は価値を失いました。 日本国内においても、2024年の飲食店の倒産件数は過去最多の894件を記録しました。効率を追求し、マニュアル化されたチェーンオペレーションであっても、もはや構造的なコスト高と「体験価値」の欠如には抗えなくなっています。データに基づき「売れる場所」に「売れる店」を置くという方程式は依然として有効ですが、それだけでは差別化が難しく、飽和と撤退のイタチごっこに陥るリスクももはや無視できません。
奪われた「未知との遭遇」
また、リアルの専売特許であったはずの「偶発的な出会い」へのニーズさえも、デジタルに代替されつつあります。象徴的なのが、「遊べる本屋」として雑多な陳列から予期せぬ商品と出会う楽しみを提供し、一世を風靡したヴィレッジヴァンガードの近年の苦戦です。かつて若者がまちに求めた「未知との遭遇」は、今や迷路のような実店舗ではなく、TikTokやInstagramのフィードの中で、アルゴリズムによってより高精度かつ効率的に提供されています。 「あなたが好きそうな未知のもの」を無限にレコメンドしてくれるSNSに勝てるだけの「上質なノイズ」がなければ、わざわざ足を運ぶ理由にはなりません。リアル空間は今、「効率」でECに負け、「偶発性」でもSNSに脅かされるという二重苦に直面しているのです。
2. 「非効率」の経済価値
「歩きやすさ」と「雑多さ」の相関
対照的に、一見「非効率」に見える人間中心の空間が、高い経済パフォーマンスを叩き出しています。 歩行者中心の空間/ ウォーカブル・シティに関するITF(国際交通フォーラム)などの報告では、歩行や自転車といったアクティブモビリティの整備が、地域の小売売上や商業の活性化に寄与することが示されています。また、シアトルなどでの調査研究においても、自転車レーンの整備や道路の安全対策(歩く・滞留するスペースの確保)が、近隣店舗の売上に悪影響を与えず、むしろプラスの効果をもたらす傾向が報告されています。車で目的地まで最短距離を移動する「効率的」な消費行動よりも、歩き、迷い、偶然店を見つける「非効率」な回遊の方が、結果としてLTV(顧客生涯価値)を高めるということです。
ケーススタディ:下北沢線路街の「支援型開発」
この「不確実性」を意図的にデザインに組み込み、成功を収めたのが「下北沢線路街」です。小田急電鉄によるこの地下化跡地開発は、テナントを公募で埋める従来の不動産ビジネスではなく、「支援型開発」というconceptを掲げました。 結果は数字に表れています。全面開業後の2022年度、下北沢駅の乗降人員は前年比21.1%増となり、小田急線全体の伸び率を大きく上回りました。特筆すべきは、20代の若年層や、これまで下北沢と縁のなかったエリアからの来街者が増加した点です。個人の商いや、採算度外視にも見える広場/ 空き地のようなスペースが、結果として「わざわざ行く理由」を創出し、強力な集客装置として機能しています。これは「迂回する経済」的な価値の創出が、巡り巡って経済的価値に転換されるモデルの実証と言えるでしょう。
3. 「余白」を実装するために知っておくべきこと
では、これからの都市開発はどうあるべきなのでしょうか。キーワードは「計画された偶然性」と「余白」の実装です。
「健全なカオス」を許容するエリアマネジメント
都市の中に「意図的に隙間を作る」設計思想はここ10年ほどじわじわと計画側で議論されていたトピックではありますが、今や国土交通省の「成熟社会の共感都市再生ビジョン」(2025年)においても、「余白を楽しむパブリックライフ」が政策の方向性として掲げられています。

これは、行政やデベロッパーが全てを作り込むのではなく、使い手が自由にハックできる余地を残すことを意味します。具体的には、以下のようなKPIの転換が求められています:
- 効率性(Sales/ sqm) → 滞留性(Activity Time): どれだけ効率よく売ったかではなく、どれだけ長く、多様な活動がその場で行われたか。
- 用途地域(Zoning) → アクティブ・フロンテージ(Active Frontage): 建物の用途よりも、路面に面した開口部がいかに透明で、内と外の交流を誘発しているか。
さらに、こういったKPIの転換は、まちづくりプロセスの変化と技術進歩に伴い、より具体的な論点へと変換されていきます。例として、現在、まちの均質化を社会課題と設定したときの主要解決アプローチ(Northbound社会課題分析ツールにより抽出)を以下に示します:
- “出会いゾーン/交通鎮静化”による交流を生む道路空間設計
- 学校×公共施設の複合化による地域の居場所/学びのハブ化
- 計画段階における対話型設計/参加型プロセス(ワークショップ設計・意見統合)
- 多文化・国際交流を生む共同生活空間(寮・レジデンス)の設計と運用
- “都市体験”を個別最適化するAI/デジタルコンシェルジュ(回遊×交流)
- ICTまちあるき/参加型プログラムによる社会関係資本の形成
- 公共空間利活用の“日常化”運用(イベント依存からの転換)
- 人流・都市データ可視化による交流拠点/動線の設計支援
- XR/3D都市モデルを用いた市民参加型ワークショップ設計
- 緑地・ランドスケープを介した交流(自然接点の設計)
- 大学・研究機関の“地域連携プラットフォーム”による人材交流の仕組み化
- スマートシティ実証フィールドでの“交流”ユースケース設計(CPS適用含む)
- 多様な交流を促すゾーニング/用途ミックスの設計(公園・水辺・街区)
- コミュニティデザイン×アート介入(迂回路・参加の入口づくり)
- まちづくりにおけるデザイン思考の適用(ユーザー理解→施策/サービス設計)
いかがでしょうか。これらはいずれも国または企業の具体的な検討・取組内容を反映した「実態のある」論点です。
また、これらの論点をまちづくりの合意形成プロセスに落とし込むと、以下の3層での転換が求められていると分析できます:
第一層:合意形成の再設計 従来の説明は、図面や資料を読み解ける専門知識を持つ人(あるいは有名設計士)ほど有利で、声の大きい人に議論が引っ張られがちでした。ここにXRや3D都市モデルが導入されると、計画案が「読むもの」から「体験するもの」に変わります。すると、賛否が感情のぶつけ合いから、「どこが危ないのか」「何が不安なのか」「どの場面が嬉しいのか」という具体論に変わり、議論の質が上がります。オンラインと現地のハイブリッドや多言語UIも同じ方向で機能し、これまで取りこぼしていた層を参加させ、偏りをならすことができます。合意形成の目的は「揉めない・なんとなく無難なものを選ぶ」から、「重視する視点の違いが見える状態で前に進めること」へと変わっていきます。
第二層:空間の成功を測るKPIの再設計 これまでの都市開発は、竣工や来訪者数のような「分かりやすい数字」に寄りがちでした。しかし、公共空間の価値は本来もっと繊細なものです。滞留の質、偶発的な出会い、安心感、使い方の多様性、地域への波及。こうしたものを扱うには、「何人来たか」だけでは足りません。そこで人流・POI・オープンデータの統合や可視化が効いてきます。重要なのは、データで未来を当てることではなく、空間の“兆し”を捉えて、動的に打ち手を変えられる状態を作ることです。
第三層:日常運用のKPIの再設計 単発イベントで一時的ににぎ(賑)わっても、日常に人がいなければまちは続きません。だからこそ、常設コンテンツ、可変レイアウト、継続プログラム、ルール設計、担い手の運営体制まで含めて「日常を回す設計」が主戦場になっています。ここでもKPIは、イベント回数や参加人数だけでなく、平日の滞留、再訪、コミュニティの参加の広がり、運営負荷、費用の持続性など、継続可能性を測るものへ移っていきます。運用が“後工程”ではなく、計画の中心に入り始めたと言えます(この流れの兆しはPFIの提案書などを見ていても感じられるところです)。

おわりに:「不確実性」へ挑むことを諦めない
2026年現在の都市経営において、最大のリスクは「変化しないこと」ではなく、「想定内の変化しか起きないこと」です。アルゴリズムは「過去」の最適解しか出しません。未来のイノベーションは、常にデータの外れ値から生まれます。
都市をデザインする企業やプロフェッショナルに求められる役割は、完璧な計画を描く「コントローラー」から、雑草や突然変異を愛で、土壌を耕す「ガーデナー(庭師)」へとトランスフォームすることです。不確実性というノイズを許容し、まちに「余白」を取り戻すこと。そのために、今現在各自が挑んでいるアジェンダ(論点)は果たして金太郎飴ではないか?と問うこと。それこそが、アルゴリズムには描けない、人間味あふれる(持続可能な)都市の必要条件だと私たちは考えています。
出典
- Reed Smith, "IAI in urban planning: Challenges and ethical considerations," 2024.
- JASIST, "Serendipity in the City: User evaluations of urban recommender systems," 2021.
- Coresight Research, "US Store Closures 2025 Forecast,".
- 帝国データバンク, 「飲食店倒産動向調査(2024年)」.
- ITF/OECD, "Improving the Quality of Walking and Cycling in Cities," 2024.
- Injury Prevention (BMJ), "Economic impact of Vision Zero road safety projects in Seattle," 2024.
- 小田急電鉄, 「2024年3月期 第2四半期決算説明会資料」.
- インテージ, 「下北沢エリアの人流・来街者属性分析」, 2024.
- 国土交通省, 「成熟社会の共感都市再生ビジョン」, 2025.
