「コンサルに頼む前に、自分たちでもっとやれることがあるんじゃないか」。建設会社の経営層からこうした声が上がるのは、ごく自然なことです。自社の現場力への信頼が強い業界だからこそ、外部への投資には慎重になります。
一方で、建設経済研究所の分析では、日本の建設業の労働生産性は製造業を大きく下回っており、長期的にも伸びが弱い傾向が示されています。McKinsey Global Instituteの分析でも、世界の建設業の労働生産性の伸びは過去20年間で年平均1%にとどまり、製造業の3.6%を大きく下回るとされています。人手不足が深刻化し、技術継承も待ったなしの状況で、DX推進や新規事業開発といった従来の延長線上にない課題が次々と降りかかっています。
こうした課題に対して、外部の専門家の力を借りることは「できない」から頼むのではなく、「もっと早く、もっと確実に進める」ための投資判断です。本稿では、建設会社の事業部門でコンサル活用を検討されている方に向けて、社内で認識を揃えるための「投資対効果の考え方」を整理します。
1. 「コスト」ではなく「投資」として捉え直す
コンサルタントへの支払いは、しばしば「外注費」として経費の枠組みで議論されます。しかし、コンサルティングを活用する目的が「業務効率化によるコスト削減」「新規事業の立ち上げ加速」「DXによる生産性向上」であるならば、それは将来のリターンを期待する投資です。
この視点の転換は、社内説得において極めて重要です。経費であれば「削れないか」という議論になりますが、投資であれば「いくらのリターンが見込めるか」という議論に変わります。
BCGの2024年のグローバル調査によれば、企業変革プロジェクト全般(コンサルの活用有無を問わず)のうち、短期・長期の双方で価値を創出できたのは26%にとどまります。変革の成功率がこれほど低い要因の一つは、プロジェクトの「投資としての設計」が十分でないことにあります。逆に言えば、外部の知見を活用する場合も、目的・成果・評価基準をあらかじめ明確にしておくことで、成功確率は大きく上がります。
2. Make or Buyの判断フレームワーク
上層部から「自分たちでやれないのか」と問われたとき、もっとも効果的な回答は「やれるか、やれないか」ではなく、「自社でやる場合と外部を活用する場合のコストとスピードを比較した結果、こちらが最適です」という判断の枠組みを示すことです。
内製か外部活用かを判断する際は、一般に以下の4つの観点で比較すると整理しやすいとされています。
- 戦略的重要性: 自社の中長期的な競争優位に直結する領域か?
- 社内のケイパビリティ: 必要なスキルとリソースが社内に十分あるか?
- スピード: 市場環境や競合の動きに対して、必要な時間軸で完了できるか?
- トータルコスト: 採用・育成・試行錯誤を含めた総コストで比較しているか?
たとえば、生成AIを活用した業務プロセス改革を例にとって、4つの軸で整理してみます。
まず戦略的重要性です。生成AIの活用は、見積書作成の効率化、過去の施工実績の横断検索、報告書の自動ドラフトなど、建設会社の管理業務を大きく変える可能性を持っています。一方で、どの業務にAIを適用し、どのようにワークフローを再設計するかという「全体設計」は、自社の業務だけを見ていては最適解にたどり着きにくい領域です。他業界を含めた導入事例や方法論を持つ外部の知見が有効になります。
次に社内のケイパビリティです。生成AIのツール自体は誰でも触れる時代になりましたが、それを組織として業務に定着させるには、業務プロセスの再設計、データの整備、セキュリティポリシーの策定、現場への導入支援といった複合的なスキルが求められます。こうした「AI活用の仕組みづくり」を経験した人材は、建設会社の社内にはまだ多くありません。
三つ目はスピードです。生成AI領域の変化は極めて速く、半年前のベストプラクティスが既に古くなっていることも珍しくありません。社内でゼロから調査・検証を進めると、結論が出るころには技術の前提が変わっている可能性があります。この分野の最新動向を追い続けているコンサルであれば、検討開始から数週間で実行計画の骨子を提示できます。
最後にトータルコストです。内製で進める場合、表面的なコストは人件費だけに見えますが、実際には採用費(人材紹介の成功報酬は一般に理論年収の30〜35%程度が目安)、教育投資、既存業務との兼務による生産性低下、試行錯誤による手戻りコストまで含めて比較しないと、見かけ以上に総コストが膨らむことがあります。コンサルの場合はプロジェクト期間のみの費用で完結し、成果が出なければ契約を終了できるため、リスクが限定されます。
こうして4軸で整理すると、「自分たちでやるべきか、外部を活用すべきか」は精神論ではなく、合理的な判断として説明できるようになります。
一方で、自社の施工技術や現場管理ノウハウのように、長年の経験で培われた暗黙知が競争優位の源泉となっている領域は、外部に頼むべきではありません。ここをコンサルに委ねると、自社の強みが空洞化するリスクがあります。
つまり、「自分でやれないのか」には「やれるものはやります。やるべきでないものにリソースを割かないための判断です」と答えることができます。
3. 「機会コスト」という見えないコスト
コンサル活用の投資対効果を論じるとき、もっとも見落とされやすいのが「機会コスト」です。
「自分たちでやる」を選択した場合に失われるものを考えてみます。
- 時間: 社内で手探りで進めている間に、競合が先に市場を押さえる可能性
- 本業への集中: 部長クラスの人材が慣れない領域の調査に時間を取られ、本来注力すべき施工管理や顧客対応が手薄になるリスク
- 人材の疲弊: 既存メンバーに「追加業務」として新領域の検討を任せることで、通常業務の品質低下やモチベーション低下を招くリスク
- 入札機会の逸失: 専門知識不足により、有望なプロジェクトの入札を見送る、あるいは準備不足のまま参加してしまうリスク
専門人材の不足や意思決定の遅れは、案件化の遅延や入札準備の遅れを通じて、目に見えにくい機会損失につながり得ます。コンサルティング費用はテーマの難易度や期間、体制によって大きく異なりますが、こうした機会損失と比較して検討することで、投資判断の精度が上がります。
社内で目線を合わせる際は、「自分たちで進めた場合に、現実的なマイルストーンが置けるか」を一度検討してみることが効果的です。期限と成果を具体的に描けないのであれば、外部を活用する合理性がより明確になります。
4. 投資対効果を「見える化」する3つのコツ
「効果が見えにくい」というのは、コンサル活用に対する上層部の典型的な懸念です。これに応えるには、投資対効果を事前に構造化しておく必要があります。以下、3つのコツに分けて説明します。
一つ目のコツは、定量効果の仮説を立てることです。コンサル活用の効果は、さらに「コスト削減」「時間短縮」「リスク回避」の3つに分けて整理すると、社内の議論が進めやすくなります。
①コスト削減(同じ成果をより少ないコストで実現する)
- 専門人材の採用コスト圧縮(コンサルが一時的にその役割を担うことで、採用・育成の時間とコストを省く)
- 工数削減による人件費の効率化(業務プロセスの見直しによる検討時間の短縮)
- 外注費・BPO費用の最適化(既存の外注構造を見直してコストを適正化)
②時間短縮(同じ成果をより早く実現する)
- 新規事業や新施策の立ち上げ前倒し(自社だけでは数ヶ月かかる検討・準備を短縮)
- 検討コストの圧縮(過去に他社で失敗した方法を避け、効率的に正解にたどり着く)
③リスク回避(起きてからでは遅い損失を未然に防ぐ)
- 不採算事業の早期見極めによる損失回避(撤退判断を早めることで投資の傷を浅くする)
- 方向性の誤りの早期修正(外部の客観的な視点により、社内だけでは気づきにくい問題を発見する)
精緻な数字でなくとも構いません。最近では生成AIを使って業界データや公開情報をもとにした概算を出すことも可能です。たとえざっくりとした試算であっても、数字のたたき台があるだけで社内の議論は格段に建設的になりますし、コンサルへの提案依頼/ RFPもより具体的になり、提案の質も上がります。
二つ目のコツは、マイルストーン型の成果確認です。契約時に「3ヶ月後にこの状態になっていれば成功」というチェックポイントを設定し、支払いもこれに連動させます。
たとえば、生成AIを活用した業務改革を3ヶ月のプロジェクトで進める場合、以下のようなチェックポイントが考えられます:
- 1ヶ月目: 対象業務の選定と現状プロセス・工数の可視化が完了している
- 2ヶ月目: 選定した業務でのAI活用戦略と効果概算が固まっている
- 3ヶ月目: 試運転により効果を確認。評価と課題ポイントが洗い出されている
実務上は、業務範囲記述書/ SoWにこうしたマイルストーンや支払条件を紐づけて管理するケースも見られます。これにより、成果が出なかった場合の損失を限定できます。
最後のコツは、ナレッジトランスファー/ KT(知識移転)の設計です。コンサルの価値は報告書や提言だけにとどまりません。その背景にある「考え方」「分析手法」「フレームワーク」を自社に取り込むことで、投資の効果を一過性で終わらせない仕組みをつくることができます。プロジェクト終了後に自社メンバーがその手法を再現できるようにワークショップや引き継ぎのプロセスを組み込むことで、一度の投資が継続的な効果を生む仕組みになります。この「釣り方を学ぶ」設計ができていれば、「毎回コンサルに頼むことになるのでは」という懸念にも明確に答えられます。
5. 社内で認識を揃えるための「整理の仕方」
最後に、コンサル活用を社内で検討する際に、関係者の認識を揃えやすくなる整理の仕方を紹介します。
まず、内製で進めた場合のシナリオを具体的に描きます。たとえば「自社で進める場合、第1四半期に担当者のアサインと情報収集、第2四半期に方針策定、第3四半期に試行、第4四半期に本格展開」というマイルストーンを置いたうえで、各フェーズに必要な人材とエフォート(工数)を見積もります。この作業を行うと、「兼務で対応できるのか」「その期間、本来の業務にどの程度影響が出るのか」といった現実的な論点が自然と浮かび上がります。
次に、外部を活用した場合のシナリオを同じフォーマットで並べます。先述のMake or Buyフレームワークに沿って、時間・コスト・品質・リスクの4軸で比較すると、「自分でできるか」ではなく「どちらが現実的か」という判断軸で議論を進められます。
あわせて、リスク管理の仕組みも整理しておくと効果的です。マイルストーン型の支払い、中間レビューによる方向修正、成果が見えなかった場合の対応方針を事前に設計しておくことで、「やってみなければわからない」という漠然とした不安を具体的な論点に変換できます。また、まずは2週間や1ヶ月のトライアル契約に対応してもらえるかをコンサルに問い合わせてみるのも有効な方法です。小さく始めて相性や進め方を確認したうえで本格契約に移行すれば、社内の合意も得やすくなります。
最後に、自社への知識蓄積の効果を添えます。ナレッジトランスファーのプロセスを契約に組み込むことで、外部活用が一過性の支出ではなく、社内のケイパビリティ(能力基盤)の向上につながることが見えてきます。
まとめ: 「外部を使う力」も組織の実力
建設会社の強みは、何十年もかけて培ってきた施工の技術と現場の力にあります。その強みを損なうことなく、自社だけでは時間がかかる領域に外部の知見を戦略的に投入する。これは「できないから頼む」のではなく、経営資源の最適配分という高度な判断です。
Oxford Economicsによれば、世界の建設市場規模は2022年の9.7兆ドルから2037年には13.9兆ドルへ拡大する見通しです。日本でも、国土交通省の2025年度建設投資見通しは75兆5,700億円(前年度比3.2%増)としており、建設経済研究所の中長期予測でも2035年度の建設投資額は名目66.4〜81.1兆円のレンジに入ると見込まれています。こうした市場環境のなかで競争力を強化するには、施工力だけでなく「外部の知見を自社の力に変換する仕組み」を持っているかどうかが問われます。
本稿が、コンサル活用を検討される建設会社の皆さまにとって、社内での議論を一歩前に進める材料となれば幸いです。
参考出典
- McKinsey Global Institute「Reinventing Construction: A Route to Higher Productivity」(2017) ── 建設業の労働生産性(年平均1%)と製造業(3.6%)の比較分析
- Boston Consulting Group「Five Truths (and a Lie) About Corporate Transformation」(2024) ── 企業変革プロジェクトの成功率(26%)に関する調査
- Oxford Economics「Global Construction Futures」── グローバル建設支出の中長期予測(2022年9.7兆ドル→2037年13.9兆ドル)
- 国土交通省「令和7年度(2025年度)建設投資見通し」── 日本の建設投資額(75兆5,700億円、前年度比3.2%増)
- 建設経済研究所「建設経済レポート No.76 ── 日本経済と公共投資」(2024) ── 日本の建設業労働生産性分析、および2035年度までの建設投資中長期見通し(名目66.4〜81.1兆円)
