関西で幼少期を過ごした私にとって、三宮は親しみのあるまちです。センター街から歩き始め、気づけば元町まで出ている。山と海が近く、駅の南北で明確にまちとしての顔が異なる様がユニークで、関東に拠点を移した今でも、自然と足を運んでしまう場所です。

今、三宮駅前で開発が進む「三宮クロススクエア」。駅前の主要幹線道路(フラワーロードや中央幹線)の車線を最大10車線から6車線、最終的には3車線へと劇的に減らし、車を排除する。一見、経済活動を阻害する暴挙に見えますが、これは「通過都市」から「滞留都市」へとビジネスモデルを転換するための、極めて合理的な都市経営判断だと考えます。

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「通過」は売上にならない

「渋滞を解消すれば経済は活性化する」という発想は、都市のKPIを“流量(通行量)”に置いた時代の正解です。しかし、商業・不動産の世界で効くのは流量ではなく、滞留時間と支出です。

この点を三宮はデータで突きつけています。神戸市の交通実態調査では、三宮周辺を通る自動車交通のうち、約半分が都心に用がない「通過交通」であることが示されています(例:南北方向は通過が約49%、東西方向は約47%)。

つまり、現状の車線群は「都心の売上」ではなく「都心の負荷(騒音・分断・危険・維持管理)」を運んでいる割合がかなり大きいと言えます。

デモグラと集客構造から見る三宮

三宮は「神戸の中心」という抽象語ではなく、①人口・就業の受け皿、②広域交通の結節、③観光・来街の集積が同居する“複合OS”です。

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①中央区は「若め・流入多め・国際性あり」

国勢調査ベースで、神戸市中央区(=三宮を抱える都心区)は2020年時点で人口147,518人。年齢3区分は、0–17歳:14,535人/18–64歳:82,524人/65歳以上:31,090人。生産年齢人口が厚く、都市の平日需要(通勤・外食・購買)を支える構造です。

さらに同じページでは、外国籍人口 8,156人も示されており、多様な消費嗜好(食・体験・ナイトタイム)を内包しやすい都市条件が見て取れます。

加えて、都心は昼間に“増える”のが本質です。神戸市の都心まちづくり資料でも、中央区の昼夜間人口比率が約211(昼間人口が夜間人口の2倍超)という構造が示されています。

この数字は、「通過を速くする」よりも「滞在を長くする」ほうが、都市の稼ぐ力に直結することを意味します。

②三宮は「鉄道需要の巨大な束」=“歩行者の母集団”が分厚い

JR西日本の駅別データでも、三ノ宮は主要駅級の利用規模です。駅別の1日平均乗車人員の並びに三ノ宮が入り、数値も109,766と示されています。

別の整理(国土数値情報の駅別乗降客数データ加工)では、三ノ宮駅の乗降客数が219,532人/日(2022年)として示されています。

重要なのは、これが「歩く人の母集団」だという点です。都心の道路空間を“通過効率”のために使い続けるのは、最大の供給源(駅利用者)を抱えながら、ARPU化できていない状態に等しい。

③観光需要も「都心集中」している

神戸市の観光統計では、2024年(令和6年)の神戸市全体の観光入込客数が2,924万人、観光消費額が3,631億円と整理されています。さらに「都心部」だけで1,811万人が示されています。

つまり三宮は、平日の就業人口・鉄道需要・観光需要が重なる「滞留を売上に翻訳できる」条件が、最初から揃っている都市です。

通過交通量というKPIからの脱却

三宮クロススクエアの骨格は単純です。車線を減らし、人・公共交通・広場へ再配分する。神戸市の構想資料では、フラワーロード等の空間再配分を段階的に進める方向性が示されています。

ここで効いてくるのが、先ほどの「通過交通が大きい」という実態です。都市の中心で、半分近くが“都心に用のない交通”なら、それは都心の売上を作らずに、都心の地価を下げる要因(分断・騒音・危険・景観劣化)を運んでいる可能性が高い。

さらに神戸市の調査では、空間再編に対する来街者の受容(賛否)の把握も行われています。細部は置くとしても、少なくとも「都心の価値向上(歩きやすさ・居心地)」を狙う政策が、世論形成の土台を持つことが確認できます。

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この発想は「グラングリーン(うめきた公園)」と同じである

駅前に滞留を生み出す——この思想は、三宮だけの特殊解ではありません。大阪・梅田の“うめきた2期”で開かれたうめきた公園は、その代表例です。

大阪市は、うめきた2期の中心に約4.5ヘクタールの都市公園を置き、平日週末を問わず、公園を中心としたにぎわいが生まれています。

梅田も、「駅前は通過処理の場所」ではなく、「滞留を設計して都市価値を増幅させる場所」へOSを入れ替えた。三宮クロススクエアがやろうとしているのは、まさにこの系譜です。

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アカデミアが示してきた「滞留の経済学」

では、滞留(=歩行・滞在の発生)を増やすことは本当に合理的なのか。主要な研究を概観しておきます。

①「滞留」は設計できる:Whyte と Gehl

ウィリアム・H・ホワイトは『The Social Life of Small Urban Spaces』で、座れる場所・食・日照・可動椅子などが空間利用を決定づけることを観察研究として示し、以降の公共空間設計の基礎を作りました。

ヤン・ゲールも『Life Between Buildings』で、人間スケールの公共空間が「任意活動(散歩、立ち話、寄り道)」を増やし、都市の公共生活を厚くすることを体系化しています。

要するに、車線を減らすだけでは不十分で、同時に「座れる・買える・見える・迷える」を設計しなければ滞留は増えない。逆に言えば、ここまで設計できれば滞留は増やせる。

②車依存は“構造的に”増える:Ewing & Cervero(メタ分析)

Ewing & Cervero(2010)は、建築環境と交通行動の研究群をメタ分析し、目的地アクセシビリティ等が自動車移動量(VMT)に影響することを整理しています。

ポイントは、「道路を便利にする=車が減る」ではなく、都市構造が車利用を誘発するという側面が実務上無視できないことです。

三宮が“車線縮小”を打ち出すのは、理念ではなく、都市行動を変えるには構造側をいじる必要があるという学術的蓄積とも整合します。

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③滞留は資産価値に転写される:Walkability Premium(商業不動産)

商業不動産の世界では、歩きやすさ(Walkability)が価格に織り込まれることが研究されています。Pivo & Fisher らの分析は、Walk Score等の指標を用い、歩きやすい立地ほどオフィス・小売等の不動産価値が高くなることを示しています。

この手の研究は「歩行者が増えると売上が増える」だけでなく、より上流の地価・賃料(=都市のキャッシュフロー)に接続する点が重要です。

三宮クロススクエアは、まさにここ(地価・賃料のレバー)を取りにいく施策です。

成功事例

滞留をうまく指標として取り込み、成功したまちの事例をご紹介します。

①タイムズスクエア:車を減らして“安全”が上がると、来街の質が変わる

NYC DOT の『Green Light for Midtown Evaluation Report』(2010)では、プロジェクト対象エリアで歩行者の負傷が35%減少したことが示されています。

さらにケーススタディ整理では、改善後に「買い物頻度が増えた」と答えた住民が42%という調査結果も紹介されています。

ここでの“成功要因”は、景観の美談ではありません。

  • 安全性が上がる(事故・負傷が減る)
  • 結果として歩行者が滞留できる(立ち止まりが許される)
  • 滞留が消費・回遊に接続する(買い物頻度が上がる)

三宮で言えば、フラワーロードや中央幹線の横断ストレス、分断、騒音の外部不経済を減らすことは、「回遊の母集団(駅利用者・観光客)」を“消費者化”する前提条件になります。

②ブライアントパーク:BID/民間運営は“独立採算”の実体を持つ

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ブライアントパークは「整備」だけでなく、「管理運営」が都市価値を作る典型です。ニューヨーク市監査の報告では、Bryant Park Corporation(BPC)が公園の管理・運営を担う非営利組織として位置づけられています。

財務面でも、IRS提出情報の整理ではBPCのRevenueが約$30.2M(2024)、Expensesが約$29.7M(2024)と示され、運営が“事業”として成立していることが見て取れます。

三宮に引き直すなら、ここが肝です。

車線を減らして生まれるのは「空間」ではなく「運営責任」です。

  • だれが清掃・警備・イベント・テナント調整を持つのか
  • どうやって維持費を回収し、再投資するのか(スポンサー、屋外出店、広告、共益など)

クロススクエアは、デザイン案件ではなく、都市の事業スキーム案件です。

③丸の内仲通り:にぎわいが生まれるオフィス街

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丸の内仲通りは、道路を「賑わい軸」と捉え直し、街路を人間スケールの憩い空間へ更新した事例です。設計データとして、延長820m・幅員21mが示されています。

国土交通省の整理資料では、来訪者調査として「恒久的な屋外広場化に賛成」90%、「屋外席の拡大に賛成」93%が示されています。

ここでの成功要因は、

  • “座れる・滞在できる”の具体要素を入れたこと(設計)
  • それが受容されることを確認したこと(調査)
  • そして都心の用途(オフィス×商業×観光)に噛み合ったこと(需要)

三宮も同じです。平日需要(就業人口・鉄道利用)と休日需要(観光入込)が同居する。

つまり、クロススクエアの勝ち筋は「車を減らす」ではなく、“滞在のプロダクト設計”を、需要構造に合わせてチューニングできるかに尽きます。

おわりに:都市のKPIを根本から問い直す視点で語れるか

三宮クロススクエアが本当に挑んでいるのは、交通の再配分ではありません。都市の稼ぎ方の再定義です。

  • 滞在時間
  • 滞在密度(どこに何分“溜まる”か)
  • アクティビティ(滞留している間の行動はどのようなものか)
  • 支出(購買・飲食・体験の単価と回数)

といった指標をまず置いて、都市のあり方を議論していくこと。「道路を減らすと不便」ではなく、「滞在が伸びると満足度と売上(および賃料)が伸びる」を、測れる形としてまちづくりに落とし込むことが重要です。


出典

  • 神戸市「三宮クロススクエア」公式ページ(車線削減、通過交通、市民意見等)
  • 神戸市 観光統計(観光入込・消費、都心部入込)
  • 神戸市 国勢調査関連資料(中央区人口・年齢構成・外国人)
  • 神戸市 国勢調査(昼夜間人口比)
  • JR西日本 駅別乗車人員(三ノ宮)
  • 大阪市「(仮称)うめきた公園」整備(面積・開園時期・コンセプト)
  • GRAND GREEN OSAKA(うめきた公園の開放等)
  • NYC DOT “Green Light for Midtown” 評価(安全・人流・速度)
  • 国交省資料「Marunouchi Street Park 2020」(売上・賛否・速度等)
  • Ewing & Cervero (2010) built environment–travel メタ分析(弾力性等)
  • Whyte関連(ストリート・ライフ・プロジェクトの位置づけ)